の形にするという工夫《くふう》をしました。
 ハムーチャがいよいよ世の中へ戻ってゆくという時、マージは彼へよく言い聞かせました。
「物を煙にするこの術は、善《ぜん》の火の神オルムーズドから授《さず》かったのだから、すべて生きてるものや役に立つものを決して煙にしようとしてはいけない。オルムーズドから世の中に遣わされたのだと心得ていなければならない。もしよからぬ心を起こすと、お前の術は悪《あく》の火の神アーリマンのものとなって、自分を亡《ほろ》[#ルビの「ほろ」は底本では「ほろぼ」]ぼすようなことになる」
「承知いたしました」とハムーチャは答えました。

     三

 そこでハムーチャは、再び火の砂漠や闇の森や怪物の洞穴《ほらあな》などを通り越して、人間の住んでいる方へ出て来ました。そしてようすをうかがってみると、もう七年もたった後のことでしたし、誰もマージの許《もと》へ行きついた者もありませんでしたから、マージの噂《うわさ》は嘘だとして消えてしまっていました。
「今に皆をびっくりさしてやる」とハムーチャは一人|微笑《ほほえ》みました。
 ある町まで行くと、ちょうどお祭りの日でした。ハムーチャは人だかりのしてる広場に、新しい毛布を広げて、まず普通の手品《てじな》を使ってみせました。それから大声で言いました。
「さてこれから、世にも不思議な術を見せてあげまするぞ。これは火の神オルムーズドから授《さず》かった術で、どんなものをも煙にしてしまって、その煙でいろいろな物の形を現わすという、天下にまたとない妙術《みょうじゅつ》ですぞ。さあさあ、不用な物があったら持っておいで、この場で煙にしてご覧《らん》に入れる」
 そこで見物人の一人が古い帽子を差し出しました。ハムーチャは受け取って、もう破れこけて役に立たないことを見定めると、それを毛布の上に置き、自分はその側に屈んで、胸に両手を組み合わせ口に何か唱えました。と、不思議にも、その古帽子がふーッと煙になって、その煙がまた大きな鳥の形になって、空高く飛び去ってしまいました。
 あまりの不思議さに、人々はあっけにとられました。次には夢中《むちゅう》になって喝采《かっさい》しました。そしてお金が雨のように投げられました。ハムーチャは得意になって、なおいろんな物を煙にしてみせました。
 それからは、ハムーチャの噂《うわさ》がぱっと四方
前へ 次へ
全7ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング