も引かずに、明るい室がある。
昼間は人家が往来の方を眺めているが、夜になると、往来が人家の方を覗き込む、と或る人は書いているが、そういうわけばかりでなく、私はへんに明るい室に気を惹かれた。そして眺めていると、その窓の一つに、ぬーっと――そう云える早さで、或は遅さで――人の頭が出てき、顔が出てき、首、肩、胸……タオルの寝間着姿の半身が現われた。まだ若いらしいが、長髪は乱れ、頬の肉は落ち、寝間着の胸ははだけ、そして鋭い眼付で、じっと窓硝子を見つめ、暫くたつと、急に下に引込んでしまった。それから、またぬっと、頭、顔、肩、半身……そして暫く見つめて、急に引込む。
それが何度か繰返された。宛も、徐々に身を起して、窓に何かを見つめ、恐れて急に屈み込む、そういう動作が繰返されてるかのようだった。私はそこに佇んで、それを眺めていた。我を忘れていた。するうちに、もう窓には人影がささなくなり、白い天井の室の中の灯火のみが徒らに明るく、何事も起らず、それが却って不気味な感じを与え、私は寒々とした気持で我に返って、急いで歩きだした。
あの男は何をしていたのであろう? それは知る由もなかったが、或る晩私は
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