をつけて、ぱっと飛びつき、口に銜えて、頭を振りながら激しく硝子にたたきつけ、相手が弱ってくるのを待って、徐ろに呑みこむのである。食物が豊富なせいか、小さな虫には見向きもしない。時には、大きい虫が来ても、捕えようともせず、数時間じっとしている。
 彼は日によって、現われたり現われなかったりするが、その彼のために私は、寝る時も、そこだけ雨戸を閉め残し、二燭光の電灯をつけ放しにしておく。豊富な猟場を、夜通し彼に残しておいてやりたいのである。
 私は彼を愛し初めているのであった。――電気スタンドの位置が時々変るので、その光のかげんで、私自身の姿が硝子戸に映って見え、その姿に彼の姿が重なり合うことがある。その彼に、私は親しみを覚え初めているのであった。
 或る夜遅く、二時近い頃であったろうか、私は街路を歩いていた。わりに広い通りだが、へんに淋しい――それは夜更けのせいばかりでもなく、低い小さな軒並なのである。そこへ大きな建物が現われてきて、その二階の一室から、灯火がさしていた。建物の模様では病院らしく、一様に並んでる広い大きな硝子窓には、みな白いカーテンが引かれていた。その中でただ一つ、カーテン
前へ 次へ
全5ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング