このお嬢さんをお貰いなさいというようになった。
 そのお嬢さんというのが、彼女の遠縁に当る名門の令嬢で、女子大学出身の才媛、勉学のために年は二十七になってるが初婚、持参金十万円近くあるという。ほほうといった気持で私は、彼女が差出す晴れやかな写真を、婦人雑誌の口絵でも眺めるように見やったのである。
 彼女は一週間おきくらいに私の家へやって来て、決心はついたかと促すのである。私の言葉などは全然無視してかかり、早く決心せよと迫るのである。十万円の持参金を貰って、その半分ほど使うつもりで、一二年世界漫遊をなさるもよかろうし、或は落着いて論文を書くなり、「レ・ミゼラブル」のような大作を書くなり、自由になすったらよかろう、ついては一日も早く、形式だけでも見合をなすったら……とそんなことに一人できめてしまった。
 これはとても手におえないと思ったので、私は一つ条件を持出してみた。見合の折に、その令嬢とどんな話をしてもよいかという条件なのである。彼女は即座に承諾した。そして次のような会話がなされたのである。
「私は女の髪が好きなんですが、髪の話をしてもよろしいんですか。」
「ええどうぞ。ウェーヴが、そ
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