れはきれいですよ。」
「女の眼もいいですね。眼の話をしてもよろしいんですか。」
「ええどうぞ。写真の通り、近代的な美しい眼ですよ。」
「耳の話をしてもよろしいんですか。」
「ええどうぞ。」
「鼻の話をしても……。」
「鼻……。」
彼女は眼をまんまるくして、いつもの癖で鼻を蔽いかけたが、とたんに私の真意を覚って、すっかり憤慨した……らしかった。そしてその結果は更に私にとって不利となり、令嬢は決して不具でも醜悪でもないという弁明から、押っ被せての結婚話になるのだ。
私は遂に面倒くさくなり、坐りなおして云った――「それじゃあ、決心しましょう。お嬢さんまで頂戴しては勿体ないから、持参金だけで結構です。」
これには、彼女もほんとに怒った。私は人の親切を無にする背徳者だということになった。然し今更、私の生活態度や結婚観を述べてみたところで、常識的な彼女に納得のいきそうな筈はない。彼女の機嫌がなおる迄には、可なりの時日を要した。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(
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