なるほど人はいろいろなことに金がいるものだなと、私はひとり感心しながら、うちしおれてる謹直な教師の友人を眺め、気の毒な思いをしたが、さて処置に困った。彼はうすうす私の状態を知っていて、それほど多くの借金をするくらいだから、二百円ばかりならどうにかなるだろう、と云うのである。これもまた尤もな理窟だ。僕が拵える金は少し利子が高いよと云うと、いくら高くても構わぬとの返事だ。
 そこで私は、一日の猶予を求めておいて、心当りを二ヶ所ほど探ってみた。ところが、どちらにも私自身の不義理があり、先ず御自身の方のことを何とかした後になさいと、意見をされるのがおちだった。
 私は泣く泣く友人に手紙を書いた。書いてるうちに、肚がたってきた。こんなに沢山の借金をしてるのに僅か二百円ばかりの金が出来ないのかと、その論理にひっかかって、癪にさわったのである。それから次に、三千円の話の論理を思い出し、手紙の終りに書き添えた――利子はいくら高くても構わないと、そんなことを云う人は、世間から見れば危険で、この話なかなか困難だろうと。
 私に見境がなく、相手が悪かったのだ。謹直な彼は、私を冷血漢だとひどく憤った。その誤解
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