私は唖然とした。というのも、そういう返事は夢にも想像出来なかったからである。断るにしてもいろいろ口実はあろうが、そんな高利の金を借りるような人には危なくて御用立出来ないとは、如何にも理路整然としているし、その論理が面白いのである。然し実世間はみなそうしたものであろう。私は自分の迂濶さを笑い、豁然と眼が開けた思いをした。そしてその論理を、いろいろのことに適用してみて、ひとり楽しんだのである。例えば[#「例えば」は底本では「倒えば」]、河に落ちた者から救いを求められる時、河に落っこちるような粗忽な者には危なくて手は差出されぬ、なんかと。
 然るに、数日後、学校の教師をしてる或る友人が来て、是非たのむから、至急二百円ばかり拵えてくれと云うのだった。――母が肺炎で入院したので、その入費にと、学校の相互扶助会みたいなものから、五百円借りることにしていたところ、その月は申込人が多く、而も申込順に依るという規則は如何ともし難く、一ヶ月延びることになった。然し母の方は案外早く回復し、一日も早く退院したがっている。そこで茲に二百円ばかりなければ、母を病院から引取ることが出来ないのだそうである。
 
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