か。頭を首の上に持ち上げてるのさえ、容易なことではなく、おれはますます首垂れていった。
ぽつりと、遠くに灯が見え、すぐに消えた。それが、おれに恐ろしい衝激を与えた。おれはくるりと引返して、家に戻っていった。力が出て来た。そうだ、おれは栄子殺害の計画を考えていたのだ。児戯に類する。立ち直らなければいけない。然し、なにか忘れものをしてるようだ。あ、戸川が言ったのだった。彼だって忘れものをしてるし、おれだって威張れやしないが、忘れものぐらい……。いや違う。どこか不具だったんだ。半身を取り落していた感じだ。回復しなければ……。
雨は少し大粒になってきた。もっと降れ、ざーっと降れ。だがおれはもう恐れずに自分の室へ戻っていった。
底本:「豊島与志雄著作集 第五巻(小説5[#「5」はローマ数字、1−13−25]・戯曲)」未来社
1966(昭和41)年11月15日第1刷発行
初出:「ユニヴァーシティー No. 2」
1949(昭和24)年10月
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年9月20日作成
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