さか、おれは躁欝病ではないし、その欝状態ではない筈だが、なにか病的なものが感ぜられた。アルコールがまだ体内に残っていて、微醺が意識されるのだったが、宿酔発散後に往々経験する、消耗性の虚脱感まで伴っていた。どうしたというのだろう。ばかばかしさに腹が立ち、それがじめじめと内攻して、泣きたいほど気がめいった。
会社のデスクにつっ伏すようにして、校正を見るふりをしながら誰とも口を利かなかった。
夕方、杉山さんが社に立寄った。おれの受持ちの執筆者だ。至ってのんびりした老学者で、気むずかしい小説家などとちがって、ひとの言葉なんか耳にとめないのはよいが、困ったことには、屋台店の焼酎を飲むのが好きだ。そのくせ、独りでは決して行かないから、誰かが案内しなければならない。編輯長は用があって行けなかったし、おれが、若干の金を貰ってお伴することになった。ますます憂欝なのだ。
杉山さんはちびりちびり焼酎をあおった。酔うにつれて、新聞記事を裏返したような調子、つまり真実をも嘘らしく見せかけて喜んでるような調子で、いろんなことを饒舌るのである。おれの方でもさして気は進まぬが焼酎をなめながら、いい加減に返事をし
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