いぶん暫くして、ぱっと電灯がつき、弓子が出てきた。今日は休みで、戸締りをしておいた筈だが、と言う。私は帰りかけた。
「飲みたいんでしょう。おあがんなさい。今日は休みだから、わたしがおごるわ。」
最初来た時から二度目に、私は彼女の室に通った。
食卓にウイスキーの瓶やピーナツが出ていた。
「お客さん?」
弓子は頭を振って、文机の上に散らかっている書箋を指した。手紙を書いていたところらしい。
「いいなあ。酒を飲みながら、恋文を書く……。僕もこれからそうしよう。」
弓子は睨むまねをした。
「何にもないわよ。おばさんが起きてれば、いろいろ御馳走するんだけれど……。」
「じゃ、起していらっしゃい。」
「気の毒よ。」
彼女は真面目に受けて、そして、長火鉢に炭をついだり、新たにウイスキーの瓶をあけたり、グラスやコップを並べたりした。そしてちょっと落着くと、思い出したように、机の上の書箋をかき集めて、書いたのを、細かく引裂き、火鉢にくべて火をつけた。私は飲みながら、黙って見ていた。
「癪にさわるから、燃しちゃうわ。」
紙の燃える火を顔に受けながら、へんに沈んだ眼付を彼女は私に注いだ。
「俊夫
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