に伯父からの手紙のことを話した。冗談のように装って話した。彼女は故意に殻にでも閉じ籠るような様子を示した。どうでもよいことのような調子を装った。装ったのだと私は思った。そして内心では、彼女が私を引きとめてくれるものと期待していた。――更に内心では、私は打ち明けて言おう。彼女との結婚を空想していたのだ。彼女と結婚して、そして私は、あの酒場を盛大に繁昌さしてやろうと考えた。そうなれば、母の生活も安泰だし、妹の嫁入りも気易く出来よう。小樽の伯父とも連絡して、海産物加工品の取引きも初めよう。
私は年内に、弓子の決定的な言葉を得たいと思った。更に空想の中では、彼女から結婚の話が出るだろうと胸をとどろかしていた。そして私は彼女に夢中になっていった。
そこへ突然、あの情景が展開されたのだ。彼女にとっては、苦悩の爆発みたいなものだった。私にとっては、雷撃にも似ていた。――私は今、それを語ることは、苦痛を超えた喜びでさえある。
商売のことで、ちょっと飲み、酔ってくると、弓子に逢いたくなった。少し遅かったが、行ってみた。
店は真暗だが、奥の室に光りがあった。私は声をかけて、煙草を吸いはじめた。ず
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