便が来るようになった。
 ――私の思わしい就職口もなかなか見つからないだろうということ。妹ももう婚期すぎと言ってよい年頃だから、その嫁入り仕度のことも考えておかねばなるまいということ。東京は衣食住とも不自由らしく、殊に、知人の罹災者一家を二階に同居さしてる由だから、ゆっくり休らう余裕もあるまいということ。伯父のところへ来る意志は私にないかということ。今はいささか暇ではあるが、将来有望な海産物の加工場に、しっかりした人物が入用であるということ。復員者であることや年頃など、私に丁度ふさわしい地位であるということ。其他いろいろ。
 次々にやってくる伯父の手紙は、督促状みたいな調子になっていった。私は曖昧な返事を出しておいた。母からも別に、曖昧な手紙がいったらしい。伯父はやがて、年内に確実な返事がほしいと、強硬な期限づきで言ってきた。年内に返事がなければ、他の人を雇わなければならないとのことだった。なにか切迫した事情があるらしいのだ。――私は母や妹の意向も探ってみたが、ただなんとなく気懸りらしく淋しそうなだけで、一向に要領を得なかった。
 そういう事情が、私を更に弓子へ執着さしたのだ。私は彼女
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