、スタンドの奥の自室に私を招じた。小箪笥や戸棚や机や火鉢や鏡台などがこじんまりと並んでるその室で、私はなんだか落着かなかった。五年ぶりに見る彼女は、もうミルクホールの娘ではなくて、垢ぬけし世馴れのした年増女に見えた。ただ頬の肉がへんに薄くなった感じで艶がなく、左の耳朶から首筋へかけて火傷の痕があった。彼女は酒と煙草とを私にすすめ、自分でも両方に手を出した。そしてしきりに私の話だけを聞きたがり、自分の方のことは殆んど話さなかった。それでも現在のことだけは打ち明けた。彼女は借家主のおばさんと酒場を一緒にやり、資本は彼女が出していた。おばさん夫婦は二階の六畳一間に寝起きし、夫は或る公共営団に勤めてるらしかった。室の様子では、彼女に旦那とか情人めいた男はなさそうだった。――それだけの収穫で、私は程よく辞し去った。
それから、私は財布が許す限りしばしば、彼女のところへ飲みに行くようになった。酔っぱらった揚句、一度、彼女の唇を求めたことがある。彼女は笑いながら、ほんのちょっとの間それを私に許した。全く受動的な無反応な冷たい唇だった。その代り、私は彼女の手をじっと握りしめることが多かった。それを彼
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