とでは、一種の妾奉公をしてるとの影口もあった。空襲が激しくなって、その家は焼けた。老人が焼死し、彼女も少し負傷した。そして彼女は自宅に戻ってきたが、自宅でまた罹災した。其後、家の人たちは知人のところに同居しているが、彼女は以前の奉公先からの多額な手当金をもとでに、或る家の階下を借りて酒場を初めた。大体そのような話なのである。
私はまだ宵の口に、その酒場へ行ってみた。谷間みたいな低い土地の、焼け残りの一廓で、古びた小さな商家が並んでいる。おでん屋めいた飲み屋がいくつもある。その中の一軒だ。ただ彼女の酒場は、入口が軒並からちょっと引っ込んでいて、その両側に、鉢植えの樹木がこんもりと茂みを拵えている。それだけが特長で、店内は、スタンドの前に椅子を並べ、ちょっとした摘み物にありふれた酒類ばかり。場馴れのした弓子の挙措が、水際立って目につくような、そういうけちな酒場だ。
私が度胸をさだめてはいってゆくと、彼女はすぐに私を見分けた。切れの長い眼を大きく見開いて、驚きとも喜びともつかぬ声を立てた。私が片手を差しだすと、彼女はそれを両手で握りしめた。妙に冷い手だった。彼女は店の方をおばさんに頼んで
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