ことが間違ってるかどうか、一晩中、いや二晩でも三晩でも、考えてこい。分ったか。」
「はい。」と清さんは答えました。
 清さんは家に来ました時から、返事ははっきりするものだと言いきかせてはおきましたが、実にはっきりと返事をする子でした。
 今になって考え直してみますと、清さんこそ可哀そうでした。わたくしにせよ、三上にせよ、清さんのことをしんみに考えてやったことがなかったのでした。自分たちのことにばかり気を取られて、清さんの立場は無視していたのでした。気の毒な犠牲者、そのような気が致します。
 三上の言うところにも、一理はありました。旦那さまだったらという忍従の考え、それはまさしく封建主義的なものの残滓でしょう。けれども、その一理だけを除けば、あとはもうめちゃくちゃです。顔に泥を塗るとか、社会的名声だとか、それこそ思い上った旦那さま的意識ではありますまいか。そして最後にみそぎばらい。わたくしの方まで恥ずかしくなります。三上だとて、場合によっては、女中のところへ夜這いも致しかねない男です。妻のわたくしが初めに疑惑を起したということが、既にそれを証明しているではございませんか。
 それはとにか
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