い、ときました。そこでわたくしは、杉山さんのこと、それから清さんの言葉など、はっきり説明してやりました。
 三上は一言も挾まず、黙って聞いておりましたが、次第に、眉をひそめて険悪な表情になってゆきました。わたくしが話し終りますと、「よろしい、分った。清さんをここに呼んできなさい。」
 一徹な見幕でした。
 わたくしとしましては、まるっきり見当が違ってきました。でもとにかく、年若い娘のことですから、と一応宥めておいて、清さんを呼びました。清さんが出て来ますと、三上は苦い顔をしましたが、酒を一本つけてこいと言いつけました。なにか苛ら立ってる気持ちを無理に押えつけてるようでした。
 それから、三上はずっと黙っていました。酒の燗が出来、有り合せの品で飲みはじめましたが、近さんはさがらせ、清さんだけを席に呼びました。
「君は利口なようで、実はばかだ。大ばかだ。」と三上は言い出しました。
 わたくしは側ではらはらしましたが、三上はわたくしの口出しを差し止めました。
「君は僕の顔に泥をぬるつもりか。」と三上は言いました。
 清さんは固くなって、差し俯向いていました。
 三上はそれでも、よほど自制して
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