に引き取らせ、子供たちは自分の部屋で勉強しておりました。話の中途で、三上が書斎か応接室かに私を連れて話を持ちこむなら、これは怪しいと判断してもよいという、策略もあったのです。
あなたは清さんをどう思っていらっしゃいますか、と真正面からわたくしは切り出しました。まさか、いかがわしい関係をつけてはいらっしゃいますまいね、と直接に切り込んでゆきました。それならそれと、はっきりしておいて頂きたいものです、と念を押しました。
自分でもおかしなほど、事務的な話しかたでした。それというのも、三上の太い神経には、デリケートな言いかたでは役に立たないと思ったからです。ところが、事務的な直截な言葉に対してさえ、三上はけろりとしていて、一向に反応がありません。少し酒に酔ってもいましたが、面白そうににやにや笑っています。
「それは近頃にない楽しい話だ。僕の身辺も少し華やいできたかな。」
そんな風に茶化して、煙草を吹かしているではございませんか。
わたくしは当が外れたというよりは、なにか癪にさわって、あなたの方はとにかく清さんの方が怪しい、と言い出しました。三上の表情はとたんに変って、はっきり説明しなさい、ときました。そこでわたくしは、杉山さんのこと、それから清さんの言葉など、はっきり説明してやりました。
三上は一言も挾まず、黙って聞いておりましたが、次第に、眉をひそめて険悪な表情になってゆきました。わたくしが話し終りますと、「よろしい、分った。清さんをここに呼んできなさい。」
一徹な見幕でした。
わたくしとしましては、まるっきり見当が違ってきました。でもとにかく、年若い娘のことですから、と一応宥めておいて、清さんを呼びました。清さんが出て来ますと、三上は苦い顔をしましたが、酒を一本つけてこいと言いつけました。なにか苛ら立ってる気持ちを無理に押えつけてるようでした。
それから、三上はずっと黙っていました。酒の燗が出来、有り合せの品で飲みはじめましたが、近さんはさがらせ、清さんだけを席に呼びました。
「君は利口なようで、実はばかだ。大ばかだ。」と三上は言い出しました。
わたくしは側ではらはらしましたが、三上はわたくしの口出しを差し止めました。
「君は僕の顔に泥をぬるつもりか。」と三上は言いました。
清さんは固くなって、差し俯向いていました。
三上はそれでも、よほど自制して
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