、ありったけお金を使ってしまって……それも、無くなればまたはいるからよいようなものの、世の中は、いつもそうばかりはいきませんよ。貯金をしておかなければいけません。あんたなんかも、これから心掛けて、いくらでもよいから、貯金をなさい。わたしは、これで、もう十年近く、一生懸命に貯金してきましたよ。十年といえば、長いものです。あんたは、丁度だから、十年たてば、三十……女の二十と三十とは、たいへんなちがいですよ。その時になって、あわてても、貯金がなくては、どうにも出来ません。わたしなんか、活動ひとつ見るじゃなし、買い食いなんてことも、一度もしたことはありません。それでも、やれ歯が痛いとか、風邪をひいたとか、なんとかかんとか、人間の身体というものは、お金がいるように出来ています。それから、ふだんの心掛け……。肌襦袢とお腰と紙だけは、白いきれいなものを使わなければ、女の恥ですよ。襦袢の襟が汚れていたり、黒い浅草紙を使ったりしてごらんなさい……みられたものじゃありません。なに、いくらもかかるものですか。わたしだって、そうしたなかから貯金をしてきたんです。貯金をするったって、あの世にしょっていくためじゃ
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