平然と受流して笑いながら、でたらめな調子になった。酒の飲み方が早くなり、流行唄をくちずさんだりして、そして坪井は何度も立ちかけた。まだ早いわと蔦子は云った。それがしまいには、帰るのがいやと云いだした。その時にはもう、二人とも酔っていた。酔ってからの時間は、知らないまにたってしまう。坪井は腹をたててるようだった。蔦子はひどく冷淡になっているようだった。
「今晩は送っていかないよ。」
「ええ、どうぞ。」
蔦子は足がよろけていた。表通りで坪井に別れると、彼女は電柱によりそったり、時々立止っては熱い息を吐き、そしてまたふらふらと歩き出した。島田にいった頭が、風に吹かるる罌粟の花のように揺いでいた。お座敷着の身体が細そり痩せて、黄色のかった帯が大きく目立っていた。その後ろから、坪井は見えがくれにつけていった。狭い裏通りを、遠廻りにぐるりとまわって、彼女は家の前までいくと、そこの格子わきの柱に両手でよりかかって、その手の甲に額をおしあて、いやいやをしながら甘えるように身体を揺っていた。
「何をしてるの。」
坪井が歩みよって声をかけると、彼女はきょとんとした顔をあげて、遠くを見るような眼で眺めた
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