る、そして借金なんか……。」その自信が余り大きかったので、他人の借金まで引受けるようなことをした。困ってる者が相談にくると、少々の金なら出してやり、都合がつかないと、借金の連帯保証をしてやった。それが全部かぶってきても、別に嫌な顔はしなかった。自分で借りたものよりも、そうしたものの方が多かったかも知れない。彼は田舎に多少の土地を持っていて、ほんとに困るとそれを売ったり、抵当にして金を借りたりした。だからわりに長く持ちこたえたとも云える。ところが、そうした借金はふえてくるばかりなのに、「今に仕事をする」その今にの方は、なかなかやって来なかった。なぜだか彼自身にも分らなかったらしい。人間の生活は、習慣に支配されてるもので、今に仕事をすると考えながら怠惰に日を送ることが、彼には一種の習慣となっていたのかも知れない。そして愈々やりくりがつかなくなると、彼は借金を全部計算してみて驚いた。意外の額に上っていた。そこで決心をした、仕事をしようと。然しそれには、さし当って面倒なうるさい借金だけは整理しておく必要を感じた。そのために土地を全部まとめて担保にいれて、四五千円拵えようとかかった。ところが、そ
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