逢う度毎に、彼が次第に元気をなくしてゆくのが見えた。沈痛な陰翳が彼にかぶさって、次第に濃くなってゆくようだった。私は心配になって、彼の経済状態をいろいろ調べてみた。そして驚いた。思ったよりひどかった。あちらこちらに不義理が重っていたし、卑屈だと思えるような負債もあったし、殊に私の注意を惹いたのは、他人の借金を引受けて負担していたもののあることと、次第に専門の金貸からの負債へ他の負債を移してゆきつつある傾向だった。尤も、彼の身分地位上、全部の負債を合してもそう多額に上るものではなかったが、然しまたそれだけ、専門の高利の負債へ移し替えようとする傾向は、先の見通しをつけない無謀なものに思われた。或る捨鉢なものがそこに見られるようだった。古くからの状態を調べて見ると、一寸借金をした第一歩がいけなかったらしく、信用制度の経済組織の穽にずるずると深くはまりこんでいったものらしい。せめて現金制度を堅守していたら、精神的生産力の干潮に際して、彼は果して餓死したであろうか。
先の見通しのない無謀なやり方について、彼の考えをなおはっきり確めるために、私は千代子の方をそれとなく探ってみた。彼女もひどく
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