だ。流れにのった浮草だ。その浮草にすがって一緒に押し流されることについて、お前は一体何を発見したのだ。つまらない感傷を捨てろ。
――君が説いているのはすべて理屈だ。僕はただ事実だけを知っている。僕と彼女とは愛し合っているのだ。愛は理知的なものではなく、肉体的な秘密だ。例えば、抱き合って唇を合わして見給え。そのままで三十分も一時間も、じっともちこたえられて、なお名残りが惜しまれたら、本当にお互が愛し合える。嫌気がさすようだったら、愛し合えない証拠だ。性慾的行為などは問題ではない。肉体の体質、そこに愛の秘密がある。この秘密を掴んでる者にとっては、生か死かは問題ではない。それを僕は発見したのだ。物理的で而も運命的な愛が世にはある。
――それにしても、お前自身はどうだ。仕事をしたい、生きたい、そのための経済的整理ではないか。生か死かは問題でない愛があるなら、それを自然に生き延させるためにでも、なぜ働かないんだ。お前のような日々を送っていては、経済上の行詰りに当面するのは初めから分っていたことだ。行詰ってから慌てても間に合わない。他人の助力によろうとするのは、卑怯な態度だ。
――またも君は
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