ぎもせず、はいってきた十内の方にひたと顔を向けたままだった。
 高い小窓からさす薄ら明りの中だったが、彼女の顔は蒼ざめて、まるで血の気を失ってるようだった。十五六才ごろであろうか、髪を編んで後ろに垂らし、前髪だけ取り分けて短く切り揃えている。額が高く広く、鼻筋がすっと清らに通っている。口は少し開きかげんで、物言いたげに見えるが、切れの長い眼は全く無心に見開かれてるだけで、何の表情も帯びていず、強いて言えば白痴のそれである。
 その顔に、十内はいきなり当面して、言い知れぬ衝動を受けた。人形なのか、人間なのか、人間ならば、生きてるのか、死んでるのか、そういう思いが真先に来たが、次に、なにかぞっと不気味な感じがした。没表情な白痴のような眼が、それなりに澄みきって、黒い瞳の奥底から、恐怖と絶望の毒気みたいなものを放射している。然しそれは十内の独り合点だったかも知れない。
 少女はかすかに膝頭を動かし、握り合せてる両手で脇を押えた。その時十内に気付いた。彼女は青服を上半身にまとまってるだけで、折り曲げてる両脚の方は裸だった。誰かに肉体を犯されたのではないか、この少女が。十内は思わず眼を見張った。
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