らないの。」
それが、何のことやら僕には分らなかった。ただ、彼女全体の感じが、冷たく、しゃちこばってるようなのは分った。ヒステリー気味なのかも知れない。いつもと違って、僕の方でお茶をいれてやった。
「では、今晩からもう参りません。」
「ああ、どうでも、自由にしたがいいよ。」
まったく、自由に振舞うのが一番よろしいのだ。
だいぶ長く黙ってた後で、彼女は立ちかけたが、また腰を落着けた。
「では、そういうことにしましょう。それから、少しお願いがありますの。」
ちと金に困ることが出来たから五万円ばかり用立ててくれないかとのこと。先に十万円用立てて貰ったから、都合、十五万円拝借することになるそうである。
僕は微笑した。まさしく彼女の方でも妾とか愛人とか、そういう感情は持っていないらしい。
「ああいいよ。いま手許にないが、明日にでも届けてあげようか。」
「いつでもよろしいの。」
大して入用でもなさそうな調子だった。ただへんに没表情な硬ばった顔付で、彼女は帰って行った。なにか胸に秘めてるものがあって、それを精一杯に押し隠してる、という風にも見えたが、女なんて、どうせいつかは打ち明けるにき
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