の旧友であり、ムラサキの常客として村上三千子の相当の信用もあるのだ。
さて、つまらない事柄は省略して、この事件の結末だけを述べることにしよう。
高木は、三千子の回復を知っても、さして喜んだ風はなかった。その代り、彼女が結婚を希望するなら結婚もしようし、単に同棲生活を希望するなら同棲生活もしようし、今迄通りの生活を希望するならそれでもよかろう、とそういう意志を私に伝えた。然し、彼女と別れてしまうということは、一言も言わなかった。
私は彼に抗議した。おひと好しすぎると抗議した。第一の条件は、これまでも二人の間はうまくゆかなかったのだから、別れるのを当然とすべきであったのだ。
「そりゃあ君、別れたって一緒になったって、結局同じことじゃないか。」
高木の返答は、高木としては明快を極めていた。
一方、三千子の方は、高木に逢いたがらず、そのくせ、高木のことを根掘り葉掘り聞きたがり、私も少々持てあました。それから次に、高木のことをふっつり口にしなくなった。いやな兆候だと私は思った。
ムラサキの店の方は、菊ちゃんが、料理番相手にどうかこうか続けていた。三千子は退院後しばらく、あまり店の方に
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