た態度だ。彼は三千子の異変を察知するや否や、その家の女将や女中に指図し、医者にも適宜な依頼をして、万事を急速に而も穏便に取計らってしまった。その旅館も人気商売だし、三千子とてもムラサキのマダムとしての人気商売だし、町医者だってまあ言わば同類だし、大事件ならばとにかく、つまらない事件では名声を世に売るわけにはゆかず、高木の希望通りになって、警察の方にも内密に終った。あの温厚な高木にそんな臨機な才能があろうとは、私には思いがけなかった。もっとも、その翌日、私は高木から電話で呼び寄せられて、いろいろ相談に応じてやり、進んで前後措置の手助けもしたのである。
次に、これは非常にデリケートな問題だが、三千子は意識を回復してから高木に逢いたがらなかった。というよりも、逢うのを恐れた。そのことを私から高木に伝えると、高木は例の微笑を含んだ眼眸で、事もなげに頷いて、彼女に逢おうとはせず、万事の交渉を私に任せた。前に、高木の告白とか三千子の告白とか名づけたのも、この交渉に当って、私が当人たちから聞いた話を私流にまとめあげたもので、真偽のほどは私の保証の限りではない。
改めて言うまでもなく、私は高木恒夫
前へ
次へ
全23ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング