中を叩いてるようでもあり、胸の中を叩いてるようでもある。水の雫のような冷たい音だ。
高木さんは仰向けに、すやすや眠っていた。不思議なほど安らかな眠りだ。よくもそう眠れるものだ。覚えていらっしゃい。仕返しをしてやるから……殺してやるから……。そしてわたしは涙を流した。もうわたしは少し生きすぎたような気がする。
ハンドバッグの中に、用意の薬剤があった。わたしはそっと起き上り、薬剤を取り出して、枕もとのコップの水にそそいだ。高木さんはまだ眠っていた。覚えていらっしゃい、殺してやるから……。私はコップを取りあげた。死のキッス、口移しに飲ましてあげるわ……。わたしはコップに口をつけ、一息に飲み干して、高木さんの胸の上に倒れ伏した。高木さんは身動きしたが、あとはしいんとなった気持ちで、やがて、苦悶の熱い塊がわたしの胸元に突きあげてきた……。
三、平岡敏行の話
村上三千子の服毒は、発見が早かったため、大事に至らずして済んだ。医者が呼ばれ、彼女は病院に運ばれ、そして僅かな日数で健康体に回復した。
この間に、私が聞いたところでは、感嘆したことが二つある。
一つは、高木恒夫の落着い
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