れてしまったのである。
「わたし、あなたを愛してなんかいません。ただ憎いだけ、ただ憎いだけ。」
そんなことを、頭を振りながら言っていると、なお涙が出て来た。
「わたしなんか、あなたにとっては、どうせ、飼い猫みたいなものでしょうよ。わたしがどうなろうと、あなたは平気でしょう。だけど、わたしだって、魂はあります。あんまり見くびりなさると、ただじゃ置かないから……。」
高木さんが菊ちゃんのことを言い出したのでわたしはなお口惜しくなった。菊ちゃんのことなんかじゃないのだ。菊ちゃんの話なんか、わたしの差金によるのだし、また、帯一筋ぐらいなんとも思ってやしない。わたし自身、いつもいつも高木さんから無視されてるのが、癪にさわるのだ。
それでもやはり、高木さんは眼で笑いながら、平然として、わたしにお酌をし、自分は手酌で飲んでいた。わたしのことより、酒の方が大事なのだろうか。高木さんは酔った。わたしも酔った。泣いたり怒ったりしながら、わたしは赤ん坊のように、高木さんの腕の中で眠ったらしい。
なにか音がするので、夜中に眼を覚した。何の音とも分らないが、コトコト叩いてるのである。それが、わたしの頭の
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