ら、二三日、どこかへ連れていって下さらない。熱海でもいいわ。」
 高木さんは眼を丸くした。
「それは、話がへんだね。君は一週間ばかり田舎へ行くし、店は休みにするとか、菊ちゃんが言っていたよ。それで、僕は菊ちゃんを熱海に連れていってやると、約束したんだが……。そんなら、三人で熱海に行こうじゃないか。」
 なんのことはない。高木さんはにこにこ笑っているのだった。
「菊ちゃんと二人でいらっしゃいよ。」
「菊ちゃんと二人じゃ、どうせ面白いことはない。三人で行こうよ。」
 手応えがなくて、わたしは拍子ぬけがしたが、それから急に腹が立ってきた。
「あなたの気持ち、よく分りました。わたし、今晩こそ酔っ払うわ。」
 もっともっと、悪態をついてやりたかったが、言葉が出て来なかった。酒を飲んでるうちに、悲しいのか口惜しいのか分らなくなってきた。
「ねえ、今晩どこかへ連れていって。そしてうんと飲まして。」
 つい寄りかかってゆくような気持ちになるのを、踏みこたえて、唇を噛みしめた。
 けれど、やはり持ちこたえられなかった。自動車をひろって、高木さんの知り合いの特殊旅館へ行き酒を飲んでるうちに、わたしは泣き崩
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