ね。そういう時僕は非常に淋しくなったり苛ら苛らしたりしてくる。昨日も丁度そうだった。僕は大変気分がよいと感じてるのに、皆は僕の容態が大変悪いと思ってるのだ。そしてまた繰返して入院を勧めるんだ。僕はそれを頑として拒絶してやった。病院のあの四角な真白な室は、想像しただけでも牢獄のような気がするじゃないか。家にいればこそ、多少の我儘も云えるし、自由も利くし、いろんな空想や追憶の頼りになるものも多いし、まあ頭の中の風通しが出来るというものだ。それを一度病院にはいってみ給え、健全な戸外の空気が少しも通わないまるで牢獄だからね。僕だって、家にいれば必ず死ぬ、入院すれば必ず助かる、とそうきまれば入院しないこともないがね、第一そんな馬鹿げた理屈もないし、また僕は自分でそんなに悪くもないと信じている。でこの入院問題なんかも、実は僕自身の晴雨計と周囲の晴雨計との指度の差から来たことなんだ。そして僕は昨晩中、一体どちらが正しいかと考えてみた。向うには僕の外的内的の徴候だの医学だのと、いろんな科学的の根拠がある。然し僕の方には、僕自身の実感という確かさがある。実感にも狂いがあろうけれど、科学にだって狂いがない
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