た髪を一寸かき上げて、顔だけはちゃんと化粧している敏子さんが、晴々と緊張した面持で私の所へやって来た。
「あなたが泊っていらしたことを云いますと、吉岡はすぐに逢いたいような風でした。あちらへいらっして下さいませんか。」
「え、どうかしたんですか。」
「ああそう、あなたにはまだ申上げませんでしたのね。」
そして敏子さんは朝の出来事を話してくれた。
夜が明けたばかりの頃、敏子さんが眼を覚して病室の方へ行くと、吉岡はそれを待ち構えていたらしく、側に呼んで、八百円の金をどうしたかと尋ねた。まだ預ったままであると答えると、それならば、看護婦の弟の学資にそれをそっくり寄附しようじゃないかと、思い込んだ調子で相談しかけた。敏子さんは返辞に迷った。その看護婦は幼い時母親に死なれ、父親とは別れ別れになり、今では頼りになる身内もなく、医学専門学校へ通ってる一人の弟へ、独力で学資を出してやってるという、憐れな感心な話だったし、また、吉岡の付添に来てから一ヶ月近くの間、言葉少く而もごく忠実に尽してくれるので、敏子さんは好意を懐いていた。その上、敏子さんは実際洋封筒の金を持てあましてもいた。然し、そんなこと
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