一事に私は最後にしがみついていった。そして急に凡てが片付いたような、晴々とした所へ出たような気がした。
三
翌日私は郊外の河野の家を訪れた。河野が朝寝坊のことを知ってて油断したために、出かけた後で逢えなかった。それで至急用が出来たから帰ったらすぐに来てくれるようにと、細君に云い置いてきた。その足で私は吉岡の家へ廻った。敏子さんは睡眠不足のはれぼったい顔をしていた。然し吉岡の容体に変りもないことを聞いて私は安心した。河野が来たらすぐに私の家へ来てくれるように頼んだ。
「河野君に逢った上でまた参ります。一寸話をすればすぐに分ることで、吉岡君の心もそれで解ける筈です。でもそれまでは、私が来たことは内緒にしといて下さい。気を遣うといけませんから。」
そして私は玄関だけで辞し去った。
河野に逢って一言話しさえすればよい、と私は思っていた。そして自宅で河野を待ち受けた。待ち続けて少し苛ら苛らしてる所へ、午後四時頃、河野はやって来た。
河野は敏子さんから何か云われたらしく、気掛りな面持で額の毛をかき上げながら尋ねた。
「吉岡君の所へ行くと、君が僕を待ってるということだったから
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