「事情は大体分りました。何でもないことです。明日また参ります。あなたはなるべく側についてて上げて下さい。」
云い捨てて私は外に出た。空の明るい晩だった。暫く歩いてるうちに気分が静かに落付いてきた。敏子さんに何とも話さず出て来たことが気になって、よほど引返そうとしたけれど、思い直して歩き続けた。
その晩私は街路を長い間歩きながら、いろんなことを考え廻した。然しそれは私一個のことだから凡て省略しよう。そして結局私は、吉岡の心が想像以上に深い所へ落込んでることを知り、また自分にも或る責任がかかってることを感じて、一種の解決案を思いついたのである。――いろんなことを突っつけば突っつくほど、問題は益々こんがらかってゆくばかりだから、いっそ問題の初めに溯って、その一つを解く方がよい。即ち、河野が持って来た八百円の金は、無理算段して拵えられたものかそれとも訳なく出来たものか、それさえ明かになれば、他のことは自然と解決されるだろう。訳なく出来たものとすればこの上ないけれども、たとい無理算段して拵えられたものであっても、そうでないと河野から一言云って貰えば、それで吉岡の心も解けて和ぐだろう。
その
前へ
次へ
全42ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング