、すぐにやって来た。何か吉岡君にも関係のある話だそうだが、どういうことなんだい。」
 長い髪の毛をもじゃもじゃに乱し、少し時候後れのセルの着物をきて、髭の剃り後を気にするらしく、言葉の合間合間には左手の先で※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]を撫で廻してる彼の様子を見ると、あの八百円が可なり無理をして拵えられたものであることを、私は殆んど直覚的に悟った。そしてなるべく遠廻しに話を持ち出した。
「昨日君は吉岡君の家に行ったそうだね。」
 河野は直截に答えた。
「ああ、昔かりてた金を返しに行った。敏子さんに渡して来たんだが、そのことも君に逢えば分ると敏子さんは言っていた。何か間違ってたのかい。」
「いや間違いというんじゃないが、君が昨日行った時、吉岡君はどんな風だった。」
「どんな風って、非常に機嫌よくいろんなことを話しかけるものだから、一寸のつもりが一時間近くも話し込んでしまった。」
 私はその時のことを詳しく尋ねた上で、吉岡の気持がだんだんはっきり分って来たので、卒直に其後の顛末を述べて、自分の考えを持ち出してみた。
「そういうわけで、吉岡君の気持も首肯けないことはない。然し敏子
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