の。側《はた》からは元気らしく見えますけれど、実は面白くない容態にさしかかっているので、人に会うことも出来るだけ避けたがよいと、そう申渡されていますのよ。でもあなたには始終会いたがっていましたし、少しくらい宜しいかと思いますわ。」
で河野は、ただ用件だけを済すつもりで、十五分ばかりと約束して、病室へ通ってみると、吉岡は思ったより晴々した顔付をしていた。そして、共通の友人達の消息や、河野の近頃の製作のことや、展覧会の噂などを、新たな興味で尋ねかけて、次には枕頭のゴヤの画集を引寄せながら、偉い画家だとは思うけれどどこかデッサンの狂いがあるらしいと、そんなことまで指摘し初めた。河野はそれに逆らわないように調子を合せて、それから、なるべく頭を使わないで静にしていた方がよい、呑気が病気には第一の薬だ、というようなことをそれとなく説いた。すると吉岡は苦笑を洩して、こんなことを云い出した。
「君もやはり皆と同じようなことを考えてるんだね。つまり皆にかぶれてしまうんだね。僕の所へ来る前に、誰かから何か云われたろう。僕にはちゃんと分ってるよ。……こうして寝ていると、僕は実際変な気持になることがある。自
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