う気持でされたんでは、僕だって面白くないじゃないか。僕は河野君からそれほど敵愾心を持たれることをした覚えはない。考えて見ると、昔河野君が今の細君と恋し合って同棲しようとした時、断然反対したことはある。また河野君の作品について、不満な点を指摘したことはある。然し河野君が僕の言葉なんか無視して、細君と同棲して落付いた生活にはいったり、自分の信ずる手法で製作を続けていったりするのを見て、僕は却って心嬉しく思ったものだ。それを河野君はよく知っててくれる筈だ。僕はなまじっか財産を持ったり、また肺病にとっつかれたりして、何一つまとまった仕事を為し得ないで、空疎な生活を送っているので、河野君が一本調子の途をぐんぐん歩いてることを、友人として非常に力強く思ったものだ。よかったら僕の財産なんか全部使ってくれても構わない、とそんな気がしたことさえある。それを僕は美事に裏切られてしまったのだ。」
私は彼の調子に威圧された形で、そして彼の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]の震えに気を取られながら、弱々しく反対してみた。
「然し河野君は、何もそんな……裏切るとか、君の死を予想してとか、そんな気で金を返
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