たら、すっかり云って下さいよ。私で出来ることなら、河野さんにそう云ってやってもようございますし、何とでも致しますから。」
看護婦の手前も構わずに、敏子さんはいろいろ尋ねかけて、彼の心を和らげようとしたが、彼は黙りこくって、一心に何やら考え込んでる様子だった。結核患者特有の敏感な意識と執拗な気分とで、内心の或る不愉快なものにじりじり絡みついていってることが、敏子さんにもはっきり見えてきた。それと共に、看護婦が妙に二人の間を距てるような気勢を示してきたことも、敏子さんの心を打った。
敏子さんは家の中を、あちらへ行ったりこちらへ来たりして、いつになく気が落付けなかった。
そういう所へ私はひょっこり行き合したのである。
敏子さんは私をいきなり茶の間へ引張っていって、其の日の出来事を話してきかした。然し聞いてる私にも更に要領が掴めなかった。敏子さんには猶更だったらしい。
「ええ、さっぱり訳が分らないから困ってしまいますの。何で吉岡がああ苛ら苛らしだしたのか、それさえ分っておれば、何とかしようもありますけれど、いくら考えても合点がゆきませんのよ。もし……何でしたら、あなたからそっと聞いて頂
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