作者の住む世界
豊島与志雄
或る雑誌記者がこんなことを云った――「新進作家に少し書いて貰おうと思って、さて誰に頼んだらよいかと考えてみると、結局誰にしても同じだという気がして、考えるのも厄介になってくる。そう思うと、実に退屈でたまらない。」
この退屈だということは、多くの人の実感であるらしい。
なぜ退屈だかを、もっとよく考えてみると、大抵の作家がみな同じような世界に住んでるからだと思う。
作者の住む世界というのは、作品に現われた材料が所在する、その外部の世界を指すのではない。材料はどんなものでもよい。その材料に対する、作者の感じ方見方腹の据え方など、そんなものをひっくるめた世界、即ち、作者の人としての知情意の内部世界を指すのである。
同じ材料を取扱っても、出来上った作品が作者によって異って、全く別種の感銘を読者に与えるのは、作者の住む世界が異るからである。
そして、新しい文芸は、新らしい世界に住む作者から生れてくる。
明治末年から大正五六年までにかけて、日本の文壇が少しも退屈ではなく、いつも溌剌としていたのは、自然主義的世界に住む作家連の間に、それとは別な世界に住む作家
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