達が頭をもたげてきたからであった。どの国の文壇をみても、文学の主流の変遷は、必ず新しい世界に住む作家連によって齎らされている。
 現在の日本の文壇が退屈でなくなり、新たな気運に進展してゆくのには、新しい世界に住む作家が出て来なければいけない。いくら新進作家が出て来ても、いくら既成作家が円熟していっても、彼等の住む世界が変らない限りは、もしくは彼等の住む世界が進展してゆかない限りは、文壇はいつも停滞退屈の感を失わない。
 近時批評家の文章などを読んでみると、既成作家と新進作家とが対抗して、既成作家は文壇の地位を確守しようと警戒し、新進作家は文壇を乗っ取ろうと努力してる、とそういった感じを与えられることがある。然しそれは事実にない嘘である。或る人々にはそういうことがあるかも知れないが、本当のいい作家には、既成と新進とを問わず、そうした意識は少しもないし、またあってもいけないのである。
 既成作家のよい者は、新進作家などを相手に物を考えてはしない。考えてることはただ、自分の住む世界の進展だけである。新進作家のよい者は、既成作家などを相手に物を考えてはしない。考えてることはただ、新しい世界を開
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