拓しようということだけである。両者は互に取組んでるのではない。別々に別々なことを考えてるのである。それを互に取組んでるかのように云うのは、批評家の僻目である。
 既成作家と新進作家とを問わず、新しい世界を開拓してゆく者は、常に新らしく生きてゆく。そういう作家から、文壇に力強い光がさしてくる。そういう作家がいることによってのみ、文壇は沈滞腐敗しないで、常に健かに息づいてゆく。
 要は、如何に巧みに作品を書くかということではなくて、如何なる世界を自分のために開拓してゆくかということである。



底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2005年12月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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