の才と、将来の何かの野望とを、想像し期待していたのかも知れない。それ故、坂田自身は家庭の中にあって、云わば浮き上ってしまっていて、下宿してるのも同様な有様だった。
坂田の書斎がまた、そのことを裏書きしてるようだった。この書斎は坂田が洋室に改造さしたもので、家の中で全く別個の相貌を呈していた。一方は、三尺の腰板から上、全面の硝子窓で、反対側は、書棚と小窓の下の机、そして左手に、ガス煖炉など、室は和洋折衷の普通のものだが、家具や装飾は全く調和統一がとれていなくて、手当り次第に一つずつ持込まれたかの観があった。文机は楢の分厚な一枚板の無装飾、まるで爼のような感じで、その上には、頑丈な紫檀の硯箱と精巧な玻璃細工のインクスタンドが並んでいる。中央には美事な桜材の大円卓があり、深々とした肱掛椅子がとりまいている。煖炉の前の椅子、横手の長椅子、みな新式の贅沢なものだが、片隅に、西洋渡来の革張りの青い小椅子が二つ忘れられている。壁には、ロダンの女の素描と南洋の仮面とが並んでいる。煖炉棚には、なまなましい木目込人形、アイヌの手彫りの木箱、さびくちた古い鉄の五重塔、其他。凡てそういった調子で、中流生活の
前へ
次へ
全30ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング