るたちで、切れの短くて深い眼や口が、緊張するに随ってくっきりと浮出してくるのだった。坂田はまともにじっと彼女の顔を見返した。
 彼女は慴えたように眼をそらした。
「もう……申さなくてもよろしいんです。」
「云うのが恐いんですか。」
「あなたは……軽蔑して……ばかにしていらっしゃるのでしょう。分りましたわ。ずうずうしい女だと思っていらっしゃるのでしょう。よく分りました。」
 彼女はふいに、涙をぽろりと落した。そしてそれに自ら反抗するように、声を震わして云い進んだ。
「よく分りました。だけど……だけど、あたしそんなつもりじゃなかったんです。兄はあんなだし、嫂さんはあんなだし、病気のお母さんがお気の毒で……お母さんのためになら、二百円くらい……あなたにとっては何でもないお金高だから……お願いしてもいいと思ったんですの。だけど、もういいんです。あたしの思い違いだってこと、よく分りました。もう決して……お願い致しません。軽蔑していらっしゃるんなら、それを……お返ししておきます。」
 坂田は腕をくんで考えこんでいた。彼女の言葉を聞いていたのかいないのか、長く黙りこんでしまった。それからふいに、立上
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