ゃありませんよ。」
「いやそうじゃないんだ。必ずあたるのが不思議だというのは、云いかえれば、不思議なほどあたるということだ。そこで、これは単なる数字の遊戯で、架空な観念の遊戯じゃないか。」
「だって、あなたは実際に、その金を、それで儲けた金を、使ってるでしょう。」
「うむ、実際的に使ってる、そしてこの相場そのものは架空だ。そこがおかしいんだ。」
「どうしてです。初めから、お伽噺だといってたじゃありませんか。打出の小槌だといってたじゃありませんか。小槌そのものは架空の観念でも、打出される小判は実質的なものでしょう。そういう……お伽噺じゃあいけませんか。」
「はじめはお伽噺のつもりだった。だから、どこまでもお伽噺にするために、数字のままにしておいて、決して不動産にはしていない。けれども、やはり、すっかり現金というわけにはいかない。株券や公債にもなってくる。公債の方はよいとして、株券の方は、多くなるとどうしても、事業というものが背景に考えられてくる、もう架空のものではなくなる。これはお伽噺の崩壊だ。」
「そんな、背景なんか、考えるには及びませんよ。それとも、主旨に反するのでしたら、全部現金と公債とにしたらいいでしょう。」
「今それを考えてるんだ。」
「じゃあ明日にでも実行なすったら、それでいいじゃありませんか。」
「それはいい。然し、この通り、もう三十七万に達している。五十万になるのは間もなくだ。五十万になれば、百万になるのはたやすい。百万からまた……。」
「それだから、お伽噺ですよ。千万になろうと、十億になろうと、お伽噺だったら、構わないじゃありませんか。」
「いや……危い。」
「危い……って、なんですか。」
「お伽噺が崩れる。」
「そんなことはありませんよ。お伽噺に限度があるでしょうか。千万だの十億だのという数は、お伽噺の中にはないんですか。」
「数はある。然しそれが金となると、もう架空のものでなくなる、お伽噺でなくなる。」
「そんなら却って、すばらしい美術品とか宝石とかにしたら、お伽噺になりますよ。或は、大きな広い森だとか、山だとか、島だとか……。」
「僕もそれは考える。……然し、その前に、やはり危い。」
「どうしてです。」
「無から生じた有という、根本の問題だ。」
「だって、お伽噺はみなそうじゃありませんか。」
「いや、ちがう。初めからあったんだ……架空のものにし
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