、お詣りしてきたわ。これ、ごらんなさい。ためしに、おみくじをひいてみたら、大吉なのよ。」
 帯の間から彼女は紙片を取り出した。大吉の説明のむずかしい文句と文字から、私がふと眼を挙げると、庭の夕闇を眺めていたらしい彼女の視線が、僅かばかり揺らぎ動いて、私の方へ向いてきた。その眼に、深い陰がいつもより一層深々と宿っている。私は、自分の方が虚を衝かれた思いで、黙って紙片を彼女に返した。
「お留さんて、まけない気で、わたしも大吉を引いてくると、出かけていったんですが、何があたるかしら。」
「まあ半吉というところでしょうね。」
 彼女は立ち上って、電燈をつけ、勝手元から台布巾を持って来た。――その立姿は、あまり立派でなかった。背が低い、というよりは足が短いので、腰から上と下との均合がとれていない感じなのだ。芸者でお座敷着の裾でも引いておれば、それもごまかせるだろうが、どういうものか、彼女はいつも裾短かに着物をつけていて、臀から下が寸のつまったずん胴をなしている。それが私には嫌だった。私にあんなに親切にしてくれる、姉か、叔母なら、すらりとした背恰好であることが望ましいである。
 それでも、私は彼女
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