ぐそこの竹垣の木戸をあけると、政代の家の勝手口で、風呂場をまわってゆけば、縁側に出る。もとは或る呉服商の隠居所だったとかで、石や植込の多い庭にだかれてるしゃれた平家だ。
政代は薄化粧して、炬燵にあたっていた。梅の大模様を散らした炬燵布団に、手先だけをちょっと差入れて、くりこしの深い着物に更に肩すべりに羽織をひっかけ、洋髪の襟足をすっきりと見せて、片膝くずしに坐ってる彼女は、奥さんともつかず、お妾さんともつかず、お上さんともつかない中途半端な感じだった。長火鉢にはお燗の湯が沸いており、食卓には魚類を主にした料理の皿が幾つか並んでいた。
「今日は、つまらないことになったの。東京から、友だちが二人、お祭りを見に来ることになってたのに、急に来られなくなったと、電報なんかよこすでしょう。待ちぼうけさせられちゃった。」
「僕がその代理の役ですか。」
「不服なの。二人とも相当にいけるたちだから、たくさんあがってもいいわ。あら、もういくらかはいってるんでしょう。」
私は炬燵にはいって、杯を受けた。遠慮はもうなかったのだ。姉というか、若い叔母というか、それに近い気持になじんでいたのである。
「一人で
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