裏町が目立って淋しい。橋のたもとで、浮浪児めいた子供が四五人、飴をしゃぶりながらメンコを闘わせているのを、赤い鉢巻をした祭礼着の子供達が、指をくわえて眺めていた。夕陽の流れてる上空には鳶がたくさん舞っていた。――私は町を少しぶらついて、それからカストリをひっかけて、家に帰り、※[#「魚+昜」、360−24]に焼酎でがまんしながら、毛布の中に寝そべって書物を読んだ。
 裏口の戸がいきなり開いて、お留さんが顔を出した。
「うちでしたか。丁度よかった。奥さんが、遊びにいらっしゃいと言っていますよ。お酒も御馳走もありますよ。お祭りだというのに、河野さん、勉強ですか。いらっしゃいよ。すぐにね。」
 言うだけ言っておいて、返事もきかずに、お留さんは帰っていった。――いつも、たいていそうなんだ。私に対してだけかも分らないが、あまり返事など聞こうとしない。田岡政代の家で働いてる四十歳余りの女で、政代のことを奥さんと呼び、政代は彼女を、お留さんと呼んでいるが、二人がどういう関係か私は知らない。
 私は煙草を吸い、焼酎をのみ、帯をしめなおし、そんなことで時間を少しつぶして、出かけていった。裏口から出て、す
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