団を引きずりだして、もぐりこんだ。雑多な想念を無理に逐い払って、ひたすらに眠った。
 正午近くに眼をさますと、いつのまにかお留さんでも来たと見え、枕頭に大きなお盆が置いてあった。銚子が二本にちょっとした摘み物が添えてある。私は眉根に皺を寄せたが、それでも酒に手をつけた。
 親切、親切……。私は杯を置いて、コップを取り出し、冷酒をあおった。親切……昨夜のあれも、彼女の親切から出たことなのであろうか。さすがにそれを肯定する勇気はなかった。ただ惨めだった。私は酒を飲み干し、更に焼酎をひっかけた。それから頭を冷水で洗い、詰襟の作業服をつけて、外に出た。
 建築社は休むことにして、製材所の方へ行った。円鋸や帯鋸が木材を自由にたち切るのを、一時間ばかり眺めた。それから野原の方を歩き廻り、河の土手をぶらついた。――無駄ではなかった。想念は次第にまとまりかけてきた。
 葷酒をぶらさげて、山門の前をぶらつくなど、愚劣なことだ。葷酒なんか大地の上にぶちまけてしまえ。山門なんか、寺院のそれでも、女性のそれでも、蹴破ってしまえ。だが、政代のあの純粋親切というものが、どうして、私の心をこんなにしめつけるのであろ
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