うか。彼女の眼に宿る陰など、もう問題でないのに、その親切だけが、どうして心をしめつけるのであろうか。強くなれ、強くなれ。彼女も畢竟、私にとって異邦人に過ぎないではないか。
河の土手で凧をあげてる子供たちと、私はしばらく一緒に遊んだ。それから家に帰った。銚子などはもうお盆ごと、持ち去られていた。
私もすぐその足で、田岡政代の家へ行った。台所口から声をかけておいて、庭の縁側の方に廻った。皮肉な態度に出るつもりだ。
「昨日は、たいへん御馳走になって、すみませんでした。ちょっと、お礼に来ただけですから……。」
室におあがりなさいとすすめるお留さんに、私はそう言った。
「まあ、お礼だなんて……二日酔いのせいじゃありませんの。」
「お礼はお礼です。もう酔ってやしませんよ。」
私はもはや惨めな思いはしなかったが、負けだという気がした。少しも皮肉にならなかったのだ。
政代は黙っていたが、なにかしきりに目配せしてるようだった。お留さんが台所へ立って行ったすきに、縁側にでてきた。
「なにか怒ってるの。」
「怒ってなんかいません。」
「でも……。」
「なまけたのを後悔してるだけです。」
「そう。御
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