てるのだが、それから先は昨夜のことと混乱してしまうのである。
 つぎはぎだらけの粗末極まる私の襯衣がきちんとたたまれて乱籠にはいっているのに、私はたまらなく惨めな気持ちがした。彼女に連れて来られて、着物をぬがせられるのにちょっと逆らったようだが、ぬいだ襯衣類を彼女が丁寧にたたもうとするのを、私は引ったくって投げやったことを、はっきり覚えている。それでも彼女は、一々たたんでしまったのだ。もし私が立派な襯衣をつけていたら、その好意を安んじて受けたろう。――そのあと、彼女は長襦袢姿で、私のそばにすべりこんできた。
 いつのまに、どこへ、彼女は行ったのだろう。もう枕も、何の跡かたも、そこにはなかった。然し、あれは夢ではなかったのだ。
 二枚重ねのふっくらした布団の中で、そんなのに久しく馴れない私は体をもてあつかいかねた。ばかりでなく、如何に残酷に弄ばれてしまったことか。彼女はしばしば、くくくくと忍び笑いをしたようだった。
 彼女は或る坊さんの話を、私に囁ききかせた。――その坊さんは、花柳地の料理屋などによく酒を飲みに来た。彼女もひいきになった。この節はお坊さんも開けなすったのね、と言うと、彼は
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