うか。
 酒をあまり飲まないお留さんは、自分だけさっさと御飯をすました。いつしか雨が降りだして、軒端にその音がしている。遠い太鼓の音もやんで、夜の深さが感ぜられる。
 私は少し図に乗りすぎたような思いが、ふっと、酔った頭にも湧いた。茶の間に上りこんで、無駄話をしたことは何度かあったが、酒食の席に長座したことは初めてだ。
 温い室の空気と炬燵と甘えきった気持ちを、無理に打ち切って席を立とうとした。
「まあ、ずいぶん現金ね。酒はまだあってよ。」
 戸棚から、新たな一升壜が持ち出される。
「お祭りだから、どうせ、飲み明しよ。中休みにハナでもしましょうか。」
 ハナなら、お留さんがたいへん好きで、また上手だ。政代はあまりうまくない。私はいちばん下手だ。然しそんなことはどうでもよい。私は雨の小野道風が好きで、そればかり狙ってるうちに、だんだん負けがこんでくる。お留さんがわざと、私に小野道風を取らせてくれることもある。だが政代は、その札をいつも私と争い、さらっていくと他愛なく喜ぶ。――二時間ほど遊ぶと、もう倦きて、また酒がほしくなる。
 お留さんは先に寝てしまった。
 風はやんだようだが、雨は強く
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